沖縄・稼大エンジニアリング株式会社

台風13号後に確認すべき5箇所

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台風とカビ 1/3

台風とカビ 1/3

2026/08/12

第1部|台風13号は現場に何を残したか

目次

    1. 40時間の暴風と、87時間の停電

    1-1. 動かなかった台風

    2026年8月6日から8日にかけて沖縄地方に接近した台風13号(アジア名:ドルフィン)は、通常の台風とは異なる進み方をしました。

    進行速度が落ち、沖縄本島の北西に位置する古宇利島や久米島の周辺で、小さならせんを描きながら進んだのです。気象分野ではトロコイダル運動と呼ばれる現象で、台風の中心が渦の軸のまわりで振動しながら移動するために起こります。

    結果として、沖縄本島地方では暴風警報が約40時間継続しました。宮古島地方にも8日午前4時13分に暴風警報が発表され、影響は本島にとどまっていません。

    この「長さ」が、本記事の主題であるカビリスクの起点になります。通常の台風であれば半日から1日で通過し、翌日には窓を開け、エアコンを稼働させ、室内を乾かす工程に入れます。今回はそれができない時間が、丸2日近く続きました。

    現場の実感としては「長かった台風」で終わる話ですが、建材の含水という観点では、滞留時間の長さがそのまま吸水量に直結します。 同じ雨量でも、吹きつけが40時間続けば、シーリングの微細な劣化部から入る水の総量は数倍になります。

    1-2. 停電が奪ったのは、冷房ではなく除湿

    被害の実態は、沖縄電力の発表によれば軽くありません。最大停電世帯数は18,410世帯(8月7日16時時点)、最長停電時間は87時間36分(伊平屋村田名/8月6日23時20分〜10日14時56分)に達しました。高圧送電線の復旧は、倒木で車両進入が困難な大宜味村の一部を除き、8月11日9時35分までに完了しています。

    注目すべきは、この長さと地域偏在です。8日18時時点で、停電世帯の約9割が本島北部に集中していました。

    停電はエアコンの停止を意味します。そして沖縄の夏においてエアコンは、冷房装置であると同時に、室内の水分を排出する設備でもあります。停電時、これに代わる手段は住宅内に存在しません。

    この点は本土の感覚では過小評価されがちです。本土であれば、停電中でも窓を開ければ通風により室内の水分は排出されます。しかし台風時の沖縄では、外気そのものが飽和に近い状態であり、かつ暴風のために窓は開けられません。通風による除湿という選択肢が、物理的に存在しないのです。

    北部エリアに引き渡し済み物件を持つ事業者にとって、この3日半は、除湿がゼロで推移した期間として扱うべき時間です。

    2. 被害統計に計上されない損害

    2-1. 統計に載るのは、目視できる損壊だけ

    沖縄県のまとめによれば、台風13号による建物被害は住宅7棟が一部損壊、公共建物2棟、その他1棟の計10棟。人的被害はけが9人で、いずれも軽傷でした。農林水産被害は約8億円の見込みで、うちサトウキビが6億円超を占めます。

    数だけを見れば、建物被害は限定的と評価されるでしょう。しかしこの統計に計上されるのは、目視で確認できる物理的損壊です。屋根が飛んだ、外壁が破損した、看板が落ちた——いずれも通過直後に確認できる被害に限られます。

    一方、本記事で扱う損害は統計に載りません。サッシ廻りから吹き込んだ雨水が室内側の下地に吸収された。停電中の3日間、閉め切られた室内の相対湿度が高い状態で推移した。屋根の吹き上げによる浸入水が、天井裏の断熱材に含まれた——いずれも「損壊」ではないため、被害報告の対象にならないのです。

    保険の扱いも同様です。風災による損壊は火災保険の対象になり得ますが、含水そのものは損壊ではないため、この時点では申請の対象になりません。そして2〜4週間後にカビとして現れたときには、台風との因果関係を示す資料が手元にないという状態になります。

    この非対称性が、後の責任論の出発点になります。統計にも保険にも記録が残らない損害を、施工者側が自主的に記録しておくかどうか——それが2週間後の対応可能性を分けます。

    2-2. 含水は報告されず、記録も残らない

    被害報告の対象にならないということは、記録が残らないということでもあります。

    台風直後、施主様から連絡が入るのは「屋根の一部がめくれた」「雨樋が外れた」といった目視可能な損壊です。この段階で「室内が濡れていないか」「押入れの中はどうか」と踏み込んで確認する事業者は多くありません。損壊がなければ、そこで案件はクローズします。

    そして2〜4週間後、カビとして表面化したとき、その時点の記録は存在しません。 台風時に含水があったのか、それとも通常の生活由来の結露なのか、判別する材料がないのです。

    この状態で施主様と向き合うと、議論は次のようになります。施主様は「引き渡し後にカビが出た」と主張し、施工者は「台風の影響と考えられる」と説明する。双方に証拠がなく、結論は交渉力で決まります。

    記録の有無が、責任範囲の議論を「交渉」にするか「検証」にするかを分けます。 具体的な記録の取り方は後に扱います。

    3. カビ発生条件は、いつ成立したか

    3-1. 相対湿度80%という分岐点

    カビの発生には明確な閾値があります。住宅建材を対象とした実験研究では、気温20〜30℃かつ相対湿度90%以上の環境で、住宅内で検出頻度の高い4菌種すべてが全建材上で発生しました。一方、湿度80%未満では建材上にカビは発生していません。

    つまり、相対湿度80%が実務上の分岐点です。この数値は覚えておく価値があります。現地確認の際、簡易的な温湿度計を室内に置いて80%を超えていれば、それは「湿っぽい」という感覚の問題ではなく、発生条件が成立している状態だからです。

    施主様への説明でも、この数値は機能します。「湿気が多いですね」では対策の必要性が伝わりませんが、「いま室内は湿度88%で、カビが発生する条件を超えています」であれば、除湿機の手配や換気の実行につながります。

    台風通過時の室内では、この閾値を押し上げる要素が3つ同時に発生します。雨水の浸入(横殴りの雨が通常は濡れない部位に水を運ぶ)、除湿の停止(停電によるエアコン停止)、通風の遮断(雨戸・シャッターの閉め切り)です。この3点が揃った室内では、局所的に高湿度の状態が数日間継続したと考えられます。

    3-2. 沖縄の気温は、年間を通じて至適範囲にある

    閾値のもう一方の変数である気温について、沖縄本島の条件を確認します

     

    沖縄の夏は、6月から9月までのすべての月がカビの至適範囲に収まっています。 20〜30℃という至適範囲に対し、平均気温は6月から9月まで27〜29℃。外れる月がありません。

    これは重要な意味を持ちます。本土では「気温が上がる夏だけ気をつける」という季節限定の管理が成立しますが、沖縄では気温という変数が常時オンの状態にあります。残る変数は湿度だけであり、湿度が80%を超えた時点で条件が成立します。

    さらに注意すべきは、6月の平均相対湿度が83%である点です。梅雨期は屋外の平年値だけで閾値を超えています。台風期の7〜9月は平年値としては75〜78%ですが、これは月平均であり、接近時の外気は飽和に近づきます。

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